今日も、「強迫性障害に類似する障害の自己解決法」として抜毛症を述べます。
抜毛症も、チックと同じようにこころのかゆみに関することです。
そのかゆみを、かかないようにすることが大切です。
抜毛症も、チックの改善に用いた習慣逆転法という方法が適応されます。
その習慣逆転法は5段階からなり、その5段階は意識化練習、拮抗反応の学習、リラックス練習、偶然性の管理、汎化練習です。
抜毛症に対する習慣逆転法を、モデルにより述べます。
モデルは若い女性です。抜毛症は多くの場合、若い女性です。
さらに毛を抜くという行為が、小学生ぐらいからあることも特徴です。
多くの場合、抜毛症を含めたこころの適応障害は成人になって困難として表面化します。
しかし本質的には、癖のようなかたちで小学生ぐらいからあるのです。
この人はいま、常に髪を抜いているのではありません。
自分が怒りと不安におそわれると、髪を抜くのです。
こころの葛藤を処理できないと、髪を抜くのです。
そして髪を抜くと、さらに髪を抜くという葛藤がプラスされます。
このような悪循環が、固定化しているのです。
このような悪循環を直接抜け出すには、習慣逆転法が有効です。
カウンセリングには多くの方法がありますが、悪循環に直接はたらき掛けるのは習慣逆転法です。
森田療法を抜毛症に、用いている場合もあります。
しかし癖のようなかたちのものには、習慣逆転法のほうが有効です。
前述のように習慣逆転法は5段階からなり、その5段階は意識化練習、拮抗反応の学習、リラックス練習、偶然性の管理、汎化練習です。
多くの場合、習慣逆転法の拮抗反応の学習のみで抜毛症は改善に向かいます。
しかしそれだけでは、やはり力不足です。
この人の場合、先ず拮抗反応の学習で抜毛症の改善をスタートしました。
拮抗反応のみで抜毛症が改善しないときに、他の方法もプラスするのです。
具体的なこの人の抜毛症に対する拮抗反応は、毛を抜きたくなったら次のことを行いました。
それは両手を、強く握りしめるのです。
毛を抜きたくなったら、両手を強く握りしめることを2分間行いました。
軽い抜毛症は、2分間の拮抗反応で改善に向かいます。
もし改善しなければ2分を、4分、6分、8、10・・・・・・と延長するのです。
なおどれほど重い抜毛症でも、20分間の拮抗反応で改善に向かいます。
この人も改善に向かいましたが、不完全なものでした。そこで習慣逆転法の5段階を、実施することになりました。
この人は習慣逆転法を4回、4週間のカウンセリングでマスターしました。
さらにそれを家庭で練習することにより、ほんものにしていったのです。
最初からの4回、4週間のうちに毛を抜くことはほとんどなくなりました。
このように練習は多くの場合、スタート直後は効果が大きいのです。
しかしながら多くの場合、生活のなかでストレスを受けると効果は弱まります。
そこで「やっぱりダメだ!」、そして「やめた!」となりがちです。
これは克服されなければいけない、最初の山です。
また逆に、三日ぼうずという敵もいます。
受験勉強は「継続は力なり」ですが、この練習も「継続は力なり」です。
この人も最初から5回ぐらいのときに、生活のなかでストレスを受けました。
頭髪を抜く衝動が復活して、またすこし頭髪を抜いてしまったのです。
ただし、それをストップする方向にも進みました。
自分で両手を強く握りしめて、拮抗反応を行ったのです。
その結果、頭髪を抜くことなく衝動を通り抜けました。
ただし現実の生活におけるストレスは、解決しなくてはいけません。
頭髪を抜くこととその衝動は、行動的な方法で解決します。
ただし現実生活そのものの葛藤は、解決しがたいのです。
ここからが認知療法の、スタートです。
その現実の問題は、頭髪を抜くことから起きた問題です。
それは「いま頭髪の一部が薄いことが、多くの人の間でうわさになっているかもしれない」というものでした。
このようなこころの葛藤には、何らかのこころの歪みが関係しています。
その歪みを見付けて、正すのが認知療法です。
この人のこころの歪みは、先ず事実の受け取り方にありました。
この人は他者が目をそむけると、それを頭髪の一部が薄いことのためだと考えて、決めつけたのです。
このような決めつけは、こころの歪みである場合が多いのです。
この人のこころの歪みは、先ず事実の受け取り方にあますが、次はその事実の消化にもあります。
事実そのものによって苦しむのではありません。事実の消化の仕方によって、苦しむのです。
神経症の人の消化の仕方は、後ろ向きです。
それに否定的な決めつけです。先ずこの後ろ向きさに、気付くことは大切です。
否定的であり後ろ向きな決めつけこそが、自分自身を苦しめるのですです。
世界で自分を苦しめられるのは、自分だけです。
他者があなたを苦しめようとしても、相手をしなければ苦しみません。
逆に他者があなたを苦しめていなくても、自分に対する否定的な決めつけは自分自身を苦しめます。
神経症の人は、先ず過去の自己否定的な記憶に苦しみます。次には、将来の自己否定的な予測に苦しみます。常に、自己否定的な苦しみに囲まれています。
すなわち、「過去の記憶に苦しみ、将来の予測により不安になる」のです。
このようなメカニズムに、振り回されているのです。
このことが分かったら、次のステップに入ります。
精神分析療法ではいわゆる「洞察」を得た後の、具体的なステップは欠けています。その結果、「分かったけれど、どうしたりいのか分からない」ことが多いのです。
それも踏まえて認知行動療法では、「録音法」という次のステップがあるのです。
その「録音法」とは、録音を用いて洞察を定着させるものです。
神経症の人の消化の仕方は否定的な決めつけです。このような否定的であり後ろ向きな決めつけこそが、自分を苦しめます。
「録音法」とは、録音を用いて自分を苦しめる決めつけを解いていく方法です。
こんがらがった決めつけを、解いていくのです。
録音に用いる言葉は、歪んだ認知を修正することが基本的なラインです。
それを、カウンセラーとともに考えます。
この人の場合は、「過去の記憶に苦しみ、将来の予測により不安になる」という言葉を基本的なラインにしました。この言葉を少し修正しました。
「人が目をそむけたのは過去の記憶、それを延長しないために進もう!」
「前向きが、最も大切!」
この言葉を録音して聴き、自分を苦しめる決めつけを解いていきました。
それと同時に頭髪の一部の薄い部分に、毛が生えてくることもイメージしたのです。
それだけで、楽しくなりました。
現実に頭髪を抜かなければ、毛も生えてきます。
それもその人の頭髪を抜かないというプラスの行為を、保たせます。
このようにして悪循環は、好循環に変わっていきます。
神経症的な行動は、固定化した悪循環です。
そのこんがらがった糸を解くのが、カウンセリングです。
こんがらがった糸を解くには、前向きな考え方を尊重することは大切です。
同時に現実が、前に進むことも大切です。
この人も頭髪を抜かないことによって、毛も生えてきました。
その事実が、現実を前に進めたのです。
事実と現実は相互関係にあり、両者はともに前に進みます。
カウンセリングは両者の悪循環をチェンジして、全体を好循環に進めます。
ひと昔前によく言われたことは「人格の変化を通して、神経症の症状を改善する精神分析療法」と、「神経症の症状の改善のみを目的とする行動療法」です。この二者択一的な考えは、とても多いものでした。
そもそも二者択一的な考えかたそのものが神経症的であり、カウンセリングそのものの中に神経症的傾向も含まれているのです。
現在では「神経症の症状と人格の変化は相互関係にある」と、考えます。
これはカウンセリングにおける現実観察から、導き出されたものです。
「神経症の症状と人格の変化は相互関係にある」とは両者は独立したものではなく、相互に関係しあうものという考えです。
わかりやすく言えば、「神経症の症状が改善すれば、人格も変化する」と言うものです。
当然、逆も成立します。
それは、「人格が変化すれば、神経症の症状も改善する」です。
これも成立します。
現在では二者択一的な考えかたではなく、両者を同時に行う傾向にあります。
「神経症の症状の改善と、人格の変化の両方をともに行う」のです。
両者を別のものと、考えません。
そのために新しいカウンセリングでは症状と、人格の悪循環をチェンジして全体を好循環に進めます。
人格の悪循環とは、「性格的な消極さ」というようなものです。
神経症的な人は、「性格的な消極さ」の中に生きていることが多いのです。
すべてに後ろ向きです。
この「性格的な消極さ」は、神経症の症状によりさらに深まります。
神経症の症状は、こころを内向きにするからです。このような後ろ向きな、悪循環です。
ある意味では「性格的な消極さ」が、神経症の症状となって現れたといえます。
自分自身を真に生きられないから、神経症の症状となって現れたのです。
次回に、さらに述べます。